
コーポレート部門 ITマネジメントユニット 企画チーム チームリーダー
瀬戸川 聡 様(右)
コーポレート部門 ITマネジメントユニット 企画チーム
杉山 賀一 様(中央)
ナビオコンピュータ―株式会社 ヘルプデスクチーム リーダー
竹本 慎吾 様(左)
- Excelでの2次元的表管理からプリザンターによる3次元的データ管理で資産情報のカオス化を制御
- データ管理設計とシステム運用ポリシー設計を固め、Excel管理の“建て増し”の落とし穴から脱却
- 次に挑むのが、プリザンター導入による業務効率の向上を社内に示し、普及に弾みをつけること
課題:IT統制推進の一環としてクライアントPCの管理の精緻化に焦点
Excelの2次元的表管理では情報粒度の均一化や履歴管理が困難

東洋アルミニウムは日本軽金属ホールディングスに属し、日本と海外に拠点を構え、国内外に向けてアルミ製品を製造・販売する会社です。提供するアルミ製品は最終的にヨーグルトの蓋材、クッキングホイルに使われたり、自動車のメタリック塗装に利用されたりしています。
IT統制推進の一環として、同社の情報システム部門にあたるITマネジメントユニットが着手したのはクライアントPCの資産管理の高度化でした。3000台を超える端末の現状と履歴管理を正確に把握することが急務となっていたのです。 同社では仮想デスクトップ(DaaS)によるシンクライアントシステムを導入しており、東京や大阪のオフィス、日本各地の製造所で使われている管理対象となる端末数は3000台以上に上ります。それらの端末は、某社製品の「IT運用管理ソフトウェア」によって、正確なインベントリの収集を行い、ログ管理やセキュリティ管理、問い合わせを受けたヘルプデスクチームが端末にリモートで介入して支援するなど、積極的に活用しています。
ただし、その管理は稼働中のPCに限られます。非稼働端末や廃棄済み端末、インベントリが収集できないネットワークに存在する端末は対象外です。「端末がいつ購入され、大阪オフィスから製造所にいつ送られ、誰が利用し、その後いつ大阪オフィスに戻って、どうなったのかなど、履歴を追うことも困難な状況でした」と、同社ITマネジメントユニット企画チームの杉山賀一氏は話します。
従来の管理方法はExcelによる台帳管理でした。しかし、運用ルールが明確でなかったため、項目に記載する情報が曖昧だったり、変更履歴が積み重なるように「備考欄」に書かれたりするなど、情報粒度が不均一で、履歴管理も十分にできていない課題を抱えていたのです。「結果として、情報は整理されず、2次元のExcel管理では端末の状態変化を適切に追跡することは困難でした。」(杉山氏)
システムの選定:プリザンターはカスタマイズの幅とデータベース構造を含むシステム仕様の開示が魅力
システム内製化の標準プラットフォームになる可能性も秘めている

そうした中、杉山氏が課題解決の活路を見出したのが、プリザンターです。選定の理由を杉山氏はこう話します。「無料かつノーコードでデータ管理の仕組みが作れる点はもちろん評価しています。しかし、特に評価したのは、データベース構造が完全にオープンである点です。それにより他のシステムと柔軟に連携することが可能で、データベースがブラックボックスになっていることが多い他のプロダクトやサービスとは大きく異なります」
プリザンターは、APIが公開されているため、ローコードのカスタマイズスクリプトを開発しユーザーが使いやすいように独自に機能改善を図ることが可能です。さらに、APIを活用したインタフェースを開発することで、他システムとの連携も実現できます」「こうしてユーザー企業の開発者がプリザンターをハンドリングして、ノーコード・ローコードでありながらスクラッチシステムに匹敵するシステムを構築できる可能性に魅力を覚えたのです」(杉山氏)。
プリザンターを使って個々の業務アプリを開発していく中で、同社に蓄積された知識やノウハウを活用すれば、迅速かつ効率的に必要なシステムを構築していくことも可能になっていきます。「プリザンターは、そうやってシステムや業務アプリを内製化するためのフットワークの軽いプラットフォームになる可能性も秘めています。
"これが欲しかった"、“かゆいところに手が届く”既製のプロダクトでは実現しにくい「業務にフィットしたアプリ」を開発する挑戦をすすめています」と、杉山氏は言います。
一方、杉山氏が所属する企画チームのリーダーである、瀬戸川聡氏はプリザンターとの出会いをこう評します。「当社がDXを推進するためには、ノーコード・ローコードツールが必要だとずっと思っていました。そうした中で、プリザンターの存在を知り、これこそ求めていたツールなのではないかと考えるようになったのです。自社のDXの基盤となり、将来的に他部署や全社での展開も視野に入るツールになるのかどうか、今まさに、それを見定めている状況です」
システムの導入:場当たり的に設計を変更する“建て増し”が情報のカオスを生む
3つの設計思想を固めるハイブリッドアジャイル開発で難関を突破

プリザンターを活用したシステムの開発では、同社ならではの工夫も凝らしています。例えば、プリザンターなどのノーコードツールの導入では、試しながら柔軟に計画や仕様を変えていく「アジャイル開発」を行うユーザーも多いでしょう。しかし、そこには思わぬ落とし穴があると杉山氏は考えています。「問題は、思想のないアジャイル開発を行ってしまうこと。ノーコード・ローコードのメリットである、仕様変更のスピードを高められることはデメリットにもなり得ます。方針が曖昧なまま仕様変更や運用方針の変更を続けると、結局はExcel時代のようなデータ管理方針の崩壊が再発しかねません。そうした設計思想のない“建て増し”の防止は絶対に死守すべきです」(杉山氏)。
そこで、杉山氏がとった方針は、従来の課題を払拭するための要件定義と設計を開発前に固めてしまうことです。すなわち、①シンプルでブレない「システム運用ポリシー」、②データの性質を見極めた「データ管理設計」、③システム化による「付加価値」この3点を設計思想とし、プリザンターを使ったクライアントPCの管理システムではそれらを堅持することを大方針として掲げたのです。
具体的には、①は情報粒度を均一化するため、「定型情報のマスタ化の徹底」「項目の入力値検証のルール化」「システムでは補完しきれない機能の運用ルールの徹底(コメント欄の入力ルール徹底など)」などポリシーを定め、運用にブレが生じないようにするという方針です。情報粒度が均一になれば、集計やグラフ化するなど二次利用が可能になります。
②は、履歴管理を精緻化するために、PCの資産情報を
●「静的データ」…クライアントPC情報など変わることがないデータ
●「動的データ」…稼働状態、利用者、配置場所など変わることがあるデータ
●「履歴データ」…動的データの遷移履歴
に分離し、情報・状態・状態の履歴の3次元的なデータ管理設計のことを意味します。静的データと動的データはプリザンター内の別々のサイトで管理。静的データと動的データを1台のPCごとに1対1で紐づけ、奥行きを持たせたデータベースを構築することによって、各クライアントPCの情報・状態・状態の履歴が一目で把握できる管理体制を整えたのです。さらに履歴を含む各データの論理削除を実施せず、「いつ何がどう動いたのか」全ての動的情報を保持し、時系列的なデータ分析を可能とすることを見据えています。
そして、③については、データを利活用するために、プリザンターで作った資産管理台帳と「IT運用管理ソフトウェア」のデータを突合し、差分を抽出することによって、精度の高い棚卸しを実現します。「プリザンターは標準機能を大いに活用することで可能となる機能が多い。これらを最大限に活かし、要件定義と設計フェーズでは、ウォーターフォール型開発のように大方針を固め、その後の開発工程では柔軟なアジャイル開発手法を取り入れる。両者の利点を取り入れた、『ハイブリッドアジャイル開発』によって、データ管理設計の建て増しという悪手に陥らずに、プリザンターのシステム構築を行うことができる」と、杉山氏は考えています。
今後の展望:オープンソースのBIツール「Metabase」でデータをビジュアル化
次は、プリザンターと「IT運用管理ソフトウェア」を連携した棚卸し機能の実装に挑戦

同社ではプリザンターによるクライアントPCの管理システムをローンチし、現在、社内のユーザーとなるヘルプデスクチームから改善リクエストを受け、対応している最中です。「挙がってくる細かい改善点をスピーディに反映できることもプリザンターの優れたポイント」と、杉山氏は評価します。
さらに、他のシステムと柔軟に連携するプリザンターの強みを活かし、オープンソースのBIツールである「Metabase」と連動させ、データをビジュアル化したダッシュボードも運用しています。「大阪オフィスに保管されているクライアントPCの在庫数をグラフで表示し、今払い出せるPCを確認できる、全社の有効資産数や拠点別の設置資産数を把握できるなど資産の見える化が可能になっています」(杉山氏)。これは、情報粒度が均一化されたことによってデータの二次利用が可能になった好例でしょう。
そして、次に挑むのが、クライアントPCの管理システムをハブとしたライセンス管理やライフサイクル管理の開発、それらによってプリザンターによる業務効率の向上の可能性を示すことです。今回、プリザンターによるクライアントPCの管理システムが稼働し、データ粒度が均一化されることによって従来の管理に数多くの記録漏れや不整合があったことが、データの可視化により判明しました。これも情報粒度の均一化による効果の一つであると考えています。その正確性をさらに担保するため、まずは前述の③システム化による「付加価値」に示した、“プリザンターの資産台帳と「IT運用管理ソフトウェア」を連携した棚卸し機能”を実装することを目標としています。「この棚卸し機能によって、プリザンター導入による業務効率の向上を示し、他業務での利用と普及につなげていくことが重要」と、杉山氏は目標を見据えます。
「IT運用管理ソフトウェア」と連携した棚卸し機能は、クライアントPCの管理システムにおける「2次開発」と位置づけ、プリザンターの認定パートナーである株式会社リーデックスから技術アドバイザーとしての支援を受けながら内製化を図っていく予定です。
これからの本格展開を前に、この東洋アルミニウムの挑戦はどうなるのか。次回の後編では、プリザンターと「IT運用管理ソフトウェア」連携による“棚卸し効率化”の最新状況を詳しくお届けします。

プリザンター運用チームの皆様