- インシデント管理に活用していたプリザンターをベースに、ラボマネジメントシステムを開発
- イントラマートのワークフローを補完する形でプリザンターを連携させ、データの完全性の担保を実現
- 各拠点からの要望にも柔軟に対応。日本での実績に加え多言語対応により海外へもスムーズに展開
課題:厳格な管理が求められる製品の試験結果や承認のデータ
公的機関の基準をクリアし、信頼性の向上につなげる
Joyson Safety Systems Japan株式会社(JSSJ)は自動車の安全部品を開発・製造する日本を代表するメーカーです。従来、衝突が起こった際に乗員を保護する製品を開発してきましたが、近年は、衝突を事前に検知して保護したり、衝突を回避したりする「アクティブセーフティ」の観点から、次世代の安全デバイスの研究開発にも力を注いでいます。
そうした中、重要となるのが、安全デバイスを開発する際の評価試験データを、いかに正確に保存しておくかということです。専門的には「データの完全性(データインテグリティ)」と言いますが、安全デバイスを提供するメーカーとして、それを担保し、信頼性を高める仕組みを構築することが急務だったのです。
当時の状況をJSSJのIT本部アプリケーション室の大槻高広氏はこう話します。「製品の評価試験を行う技術評価部から、データの完全性に関して、海外の公的機関の監査基準を順守できるシステムの開発の相談を受けました。基準は厳格であり、誰がいつどのような試験をしてどういった結果を得たのか、あるいは、誰がそれを承認したのかといった様々な試験に関わる全てのデータを、以後の変更が不可能な状態でデータベースに保存する必要があったのです」。
データの完全性に関しては、どの業界でも厳しく管理することが求められています。一度入力した生データは、1次試験から最終試験まで全ての過程をログとして残すことが、信頼性を高める上で不可欠という考え方です。公的機関に加え、製品の供給先である自動車メーカーの信頼につなげるためにも、データの完全性を担保するシステムの構築は最重要事項となっていたのです。
システムの選定:インシデントとプロジェクト管理にプリザンターを活用
イントラマートと連携して試験と承認のログを完全保存
まず、IT本部が導入の提案をしたのが、NTTデータが提供するワークフローシステム「イントラマート」の導入です。既にIT本部で活用してきた実績があり、試験結果と決裁者の承認データを記録するのに適したシステムだと考えたからです。
ただし、イントラマートでは、標準機能において最終的な試験結果データの記録は残せますが、過程も含めて全ての試験の履歴(ログ)を保存するには、別途カスタマイズ開発が必要となり、時間とコストが掛かることが課題でした。そこで、IT本部が考案したのが、プリザンターをイントラマートに連携させ、全てのログを残しながら、ワークフローの承認も実現するハイブリッドなシステムの構築です。
実は、IT本部では既にプリザンターを別の業務で導入済みでした。IT本部が提供する社内向けサービスに関するインシデント管理、改善のためシステムを改修や構築する際のプロジェクト管理で、プリザンターを数年にわたり、活用してきたのです。「プリザンターは画面がユーザーフレンドリーで入力が簡単。必要な項目も自由に増減でき、構築も容易です。他の業務管理ツールと比べ、その優位性は顕著であり、さらに、導入コストが基本的に無料であることも大きな魅力でした(大槻氏)。導入後は、ITサービスの管理が可能になり、IT本部では、ログの蓄積にとどまらず、KPIを設定し、サービスの向上につなげるサイクルも実現。「使い勝手が良いプリザンターであれば、技術評価部の現場でも入力が促進され、データの完全性の保証が可能になると判断したのです」(大槻氏)。
導入:変更不可のWORM(Write Once Read Many)ストレージとスマホアプリも連携
アジャイル開発で実装を優先し、改修と追加で完成形へ
データの完全性を保証するシステムの構築は、プリザンターを提供するインプリムが開発を請け負い、導入を推進しました。システムでは、プリザンターで試験を行う製品をサンプル登録し、「誰が作って運び、誰が受け取り、テストを行い、結果はどうだったか」という非常に細かい項目まで入力し、全てをログとして残すことができるように設計。同時に、各試験について、イントラマートで承認フローが連動し、それらもログとして保存されます。こうしてプリザンターとイントラマートによって、試験データと承認履歴の一元管理を実現しているのです。
さらに、全てのデータは一度保管すると削除も変更もできなくなる、NetAppのSnapLockという機能で実現したWORMストレージに自動的に蓄積される仕組みを構築。これによって、一度入力した全履歴が変更不可能な状態で保存される“データの完全性”が担保されています。
JSSJでは導入後、システムの正確性と効率性をもう一段高めるため、入力デイバスとしてスマートフォンの導入にも踏み切っています。「試験結果やテストログの入力は専用パソコンで行っていますが、これらの入力を現場でタイムリーに入力し作業効率とデータ完全性をより向上させる必要がありました。改善策として、スマホアプリをインターフェースとして追加し、プリザンターと連携。異常値が入力されると警告が出る機能も実装しました。これによって、タイムリーかつ正確なログの保存が可能になったのです」と、IT本部本部長の川崎直人氏は、説明します。
こうした開発で奏功したのが、インプリムがアジャイル開発の手法を取り入れている点です。スモールスタートでまずは可能なところからシステムを稼働させ、現場で使って改善点があれば改修し、追加の要望があれば、プロジェクト化して実装することを繰り返してきました。「コストとスピードの面で、アジャイル開発は従来にないシステムを導入する際に非常に有効」と、大槻氏は評価します。効果:製品の試験結果のデータの完全性を確立
アジア各国の拠点にも展開し、当局の監査基準をクリア
プリザンター、イントラマート、WORMストレージ、スマホアプリの4つのツールが連動した独自のシステムは「ラボマネジメントシステム(LMS)」として、数年前から稼働しています。JSSJ製品の試験結果の正しさを担保するシステムとして、海外の公的機関の監査基準をクリアし、信頼性を裏付ける仕組みとなっているのです。
また、このLMSはアジアの各拠点にも導入を果たしています。プリザンターは多言語対応しているため、海外展開が容易。各国では入力項目が異なっていたり、回線のスピードが遅いエリアがあったりしましたが、インプリムがその都度チューニングし、各拠点で問題なく使える状態となっています。「各拠点にも海外の公的機関の監査が入っていますが、日本と同じシステムのため、『データの完全性が保持できている』という説明がしやすいのが利点です。もちろん、全ての拠点で当局の監査基準はクリアできています」と、IT本部アプリケーション室の中西奈緒子氏は話します。
JSSJでは、調達部門や技術企画室など他部署にもプリザンターの導入を提案し、社内での横展開を図っています。今後もLMSを含めて機能強化を図り、業務効率をより高めていく計画です。
Joyson Safety Systems Japan株式会社 愛知川製造所社屋