- コストを掛けた効果検証が難しい中、無料のプリザンターで職種ごとに分断されたデータの共有化に成功
- 職種をまたぐ進捗管理や面会管理、勤怠管理、eラーニング機能までプリザンターを縦横無尽に徹底活用
- 今では全職員に浸透し「その業務はプリザンターで効率化できないか」を念頭に業務効率化を推進
課題:自分たちで出来ることを最大限に活かして費用をおさえ、いかに業務改善を実現できるか
Excelによる情報共有が中心であった環境を変えるために浮かび上がった最有力ツール
江別市立病院は、札幌に隣接する江別市とその近隣市町村を含む約16万人の医療圏を持つ急性期対応の中核病院です。自治体系病院のため内科、外科だけでなく、小児科、産婦人科など地域に不可欠な領域まで幅広く担う一方で、設備投資に十分な資金が確保できず、費用のかかるシステムの導入が難しいという経営課題も抱えています。医療を行うための基本的な電子カルテや各種検査システム等は必須のものですが、業務効率化に向けたシステム投資は優先順位が低くなりがちです。「そのため、極力お金をかけずに自助努力で業務のデジタライゼーションを行う事をまずは考えています。他の医療機関でも似たような境遇の施設もあるのではないか」と、院内情報システム担当部署の高橋氏は話します。
しかし、病院の業務の全てを電子カルテシステムで対処できないのが実情です。例えば、電子カルテシステムはカルテの電子化には対応していますが、パッケージ製品であることが多く、病院や職種ごとの細かい業務には十分対応できないと感じています。また、現場には様々な職種やITリテラシーの異なる職員がいるため、これまで電話や手書き、パソコンへの手入力といった、説明が不要ですぐに使える方法で対応してきました。「ただし、そうしたアナログな手段では現場の業務負担が大きく、業務の多様化、働き手の人数が限られる中、『効率化できないか』という要望は、システム担当部署にも寄せられていました」(高橋氏)
情報共有にはよくExcelが使われますが、職種間での共有やリアルタイムでの更新には課題があります。そこで、着目したのが、無料のWebデータベースツールです。そして、インターネットで検索した結果、最有力ツールとして浮かび上がったのが、ノーコード・ローコードのWebデータベースである「プリザンター」だったのです。
システムの選定:無料という圧倒的なハードルの低さと整備されたユーザーマニュアル
パートナー企業が発信する情報を活用し、多部署が関わる進捗管理を容易に実現
プリザンターを有力視した最も大きな理由が「無料」で始められることです。高橋氏と共にシステム担当部署で業務に従事する長岡氏はこう話します。「無料という圧倒的なハードルの低さは、当院にとって大きなアドバンテージでした。さらに、操作マニュアル、管理マニュアルが公開されており、自力で導入・運用できる点にも可能性を感じました。また、画面のデザインや操作性がシンプルで、職員のデジタルリテラシーに関わらず使いこなせそうな点も魅力でした」。
そして、マニュアルをもとに設定を模索する中で、見えてきたこともあります。それは、病院独自の業務に応じて、柔軟にカスタマイズができる点です。「パッケージシステムではどうしても病院毎、診療科毎の特性、独自ルール等、実業務の細部まで落とし込むことはできませんが、プリザンターの柔軟性は、パッケージシステムと業務の間を補完してくれる最良のツールだと感じています。」(高橋氏)「例えば、当院では業務が実施中であると『実』、完了すると『完』などアイコンで示すルールがあり、従来から見慣れたアイコンの表示もプリザンターの標準機能で容易にカスタマイズできます。そうした既に業務に根付いているルールを実装できるか否かは、普及にも大きく影響します。そんな細かい使い勝手をプリザンターでは工夫できる柔軟性があったことも導入を後押ししたのです」(長岡氏)
江別市立病院では、プリザンターをインストールし検証していた同時期に、訪問看護ステーションと医師事務作業補助者の部門から、医師の指示書類の代行作成について部署を跨いだ進捗管理と情報共有を行いたいという相談があり、評価を兼ねてプリザンターで対応してみることにしました。従来であれば、Excelの共有機能等を使うところで終了していましたが、プリザンターではより広く、わかりやすく情報共有を図ることがいとも簡単に実現でき、「使い勝手が良く、『これは使えるツールだ』と関係者全員が実感した出来事でした。そこで、他部署にも活用していこうという気運が生まれ、システム担当部署を中心に、院内の様々な業務に応用していく方向性が固まっていったのです」(高橋氏)
システムの導入:プリザンターで面会患者管理も現場の看護師が代わりに担い効率化
職員の間で浸透し、現場から業務を改善する好循環が生まれている
その後、プリザンターの導入は着々と推進されていきました。主な事例が業務の進捗管理です。最近の例ですと、従来CTやMRI等の検査機器を共同利用という形で地域のクリニックさんからの依頼をうけて患者様が検査のみを行うために来院していただくというケースはありましたが、その流れを変更する院内の取組が始まりました。情報共有の観点では放射線科、事務、患者支援センターが予約から検査、帰院までを適切に対応するために必要なものですが、以前であれば数十本以上の電話や紙ベース、もしくは転記中心のExcelでやり取りしていたのが実態でした。
しかし、プリザンター導入後は状況が一変します。同院ではプリザンターと電子カルテシステムの情報取得についてスクリプトを作成し実現させており、紹介患者の受け入れ要請が来た場合、電子カルテの患者情報を検索し、プリザンターに自動転記することからスタートします。以後、その患者がいつ来てどんな検査を行うかや、検査の進捗管理を全てプリザンター上で行えるようになり、情報共有における業務負荷が大幅に軽減されたのです。
さらに、進捗管理だけでなく、データベースとしての活用も進んでいます。「ある診療科では、その日に何人の患者が来て、看護師が何人だったかを日々記録。曜日や時期による増減を分析し、看護師の勤務シフトの最適化に役立てるといった使い方もしています」(長岡氏)曜日や時期による増減を分析し、看護師の勤務シフトの最適化に役立てるといった使い方もしています」(長岡氏)
一方、コロナ禍の際、患者と家族の面会が制限される中、その面会患者管理をプリザンターで行った事例もあります。面会する家族などがいつ何人で来院するかといった情報をプリザンターに入力し、関係者で共有するという方法です。プリザンターを導入していなければ、面会管理の対応を事務部門が管理する必要があったと思われますが、プリザンターでの情報共有が実現したことで感染管理部門、病棟、事務間における情報を関係部署だけで管理できるようになったのです。「患者と頻繁に接する看護師が日程を聞いて全体に共有する方が手っ取り早いことは明白。そうして、本来医療事務で行ってきた処理を現場の看護師に落として業務効率化を図れる点も、プリザンターの効果の一つです」(長岡氏)
その他、Excel
VBAを使って職員が入力しやすい画面を作成し、API連携によってプリザンターのデータを読み書きするシステムも構築。働き方改革が推進されるなか、管理を求められる医師の時間外労働、休暇申請や、時短勤務中の看護師の申請登録等、見慣れたExcelの画面に入力し、プリザンターに連携。総務部門の職員がCSVでダウンロードして給与システムに取り込む使い方で、業務の大幅な時短と転記ミス防止を実現しているケースもあります。「これらの活用は、大半が現場の職員から出た要望やアイデアがもとになっています。つまり、プリザンターが職員の間に浸透し、『この業務はプリザンターで効率化できないか』と考える習慣が根付き、それを次々と実装していく、いわば、現場から業務を効率化する好循環が起こっています」(高橋氏)
今後の展望:eラーニングシステムもプリザンターで簡易的に代替構築を実現
システム部門の負担軽減を考えている施設にこそ最適なツール
また、プリザンターがコスト削減にも寄与しています。同院では数年前に電子カルテシステムをリプレイスした際、付属していたeラーニングシステムも再構築が必要となりました。ただし、新たにシステムを作成すると費用がかかり、予算の計上が困難な状況でした。
そこで、考案したのが、プリザンターを活用してeラーニングシステムを作ることです。「元々使用していたeラーニングはコンテンツ管理や視聴管理が中心で一般的なレポート機能等はなかったため、それであれば、プリザンターの機能で十分に対応できます。実際、プリザンターのテーブルに動画のリンクを貼り、別タブでアンケート回答用のフォームを作ることで、簡易的なシステムが完成しました」(長岡氏)。
こうして、電子カルテシステムでは不可能な様々な情報共有の“プリザンター化”にチャレンジしており、「まずはスモールスタートでやってみて、困難であれば方向性を変えたり、あるいは別の手段を考えたりするなど試行錯誤できる点もプリザンターの利点です」(長岡氏)
そして、自治体系の病院でプリザンターを導入する優位性を、長岡氏は改めて次のように話します。「自治体系病院のシステム担当者は、市の異動によって配属されることも多く、担当者にデジタルリテラシーが必ずしも備わっていないケースもあるかと思います。そんな状況下で、専門知識が無くてもノーコードで業務に必要なアプリが作成でき、多少煩雑な操作が必要なケースでもユーザ向けのマニュアルが充実しているプリザンターは、まさにそうした担当者が使うのに最適なツールといえるでしょう。自分たちで行うのが不安であれば、認定パートナーのベンダーに構築、運用してもらうことも可能です。業務効率化に悩んでいるのであれば、活用を検討していただければと思います」
情報システム係の皆様