- 創業から20年分の帳票が“紙”で保管されており、改善を図るにはWebデータベース化が必須
- 複雑かつ様々な処理があり、システム化するには柔軟にカスタマイズができるプリザンターが最適
- 帳票やデータの一元管理が実現し、営業のステイタスの確認も可能になり、取引先対応が円滑化
課題:担当者それぞれが別々にデータを作成。再入力や転記も常態化
帳票が“紙”で保管され、過去の必要な記録が探し出せない事態も
エム・アイ・エス テクノロジーは、水晶デバイスや半導体デバイス、センサーなどの出荷前テストを行う際に使うソケットを専門に開発・製造・販売するメーカーです。特に水晶デバイス用ソケットは世界シェア7割以上となっています。水晶デバイスは自動車やスマートフォンなど様々な産業で使われており、海外メーカーとの取引も多数に上ります。今は製品の7割が海外への輸出となっています。
同社は国内外で営業活動を行っています。そうした中、課題だったのが、顧客情報や注文書、請求書、納品書など帳票類のデータが担当者ごとに複数のパソコンで別々に作成されていたことと、それらの帳票類は最終的に印刷され、紙の資料として保管されていたことでした。営業事務を担う岡部奈保美氏はこう話します。「複数のパソコンに書類が点在しているため、転記のために同じデータを何度も再入力することもあり、二度手間やミスも起こっていました。また、私が休むと必要な情報を探し出すことができず、業務が止まることもあります。そして、最も困っていたのが過去の注文書などが紙で保管されていたことです。例えば、数年前の注文の単価や条件を調べるのに、ひとつひとつ紙の帳票を確認しなければならず、時には大量の紙帳票から探し出せない場合もありました」。同社の注文処理は月平均で約50件。創業以来20年分が紙の帳票として保管されています。その中から過去の資料を探すのは大きな負荷であり、非効率でした。
一方、月末になると注文が増え、出荷も優先する必要があるため、再入力などの作業は後回しにせざるを得ません。「その積み残しになってしまった入力作業を、一気に片付けようとすると、ミスが発生し、それを修正するという悪循環にもなっていた」と、岡部氏は言います。作業負荷を減らし、データを整理するためにもシステム化を図る必要がある――。岡部氏は自社の白鳥岳志社長にシステム化の必要性を相談したところ、承認を得られ、データベースの構築に向け、同社は動き出したのです。
システムの選定:個別の顧客や海外の事情に合わせて取引の処理が複雑化
イレギュラーな処理をシステムで対応できるのかが課題
同社がプロジェクトを進める上で相談したのが、ITの展示会でブースを訪れたのがきっかけで知り合った、SI会社のSMSデータテック(以下、SDT)です。ただ、エム・アイ・エス テクノロジー側には一つ懸念点がありました。それは、同社が取引先の要望に応じて、様々な個別の処理を行っており、かつ、海外との取引が多く、為替やコミッション率の調整、インボイス(貨物明細書)の発行などもあることです。そのため、「そんなイレギュラーな処理も含めて本当にシステム化できるのかというのは、正直なところ心配でした」(岡部氏)。
例えば、同社では、一度注文量が決まった後に数量が変更になることや、数量が多い場合、分納で納期を決めること、あるいは、一つの注文に対して仕入れ先が何社にもまたがる場合に、元の注文に紐づけて処理するなど、様々な独自のやり方があります。一般論で言っても、中小・中堅企業では、こうした独自の商習慣や取引先のやり方に合わせて業務が複雑になるケースも多く、それをシステム側で吸収するには、多くの開発コストを要するため、プロジェクト自体が頓挫してしまう場合も多くあります。
そうした中、SDTが候補として選んだのが、ローコード開発プラットフォームのプリザンターです。SDT側は理由を次のように話します。「プリザンターはパソコン操作に詳しくない方でも使いやすく、汎用性が高いために標準で様々な業務に対応できることが強み。さらに、ポイントとなるのが、コストを抑えながら顧客の業務に合わせてカスタマイズがしやすい柔軟性を持っていることです。プリザンターであれば、エム・アイ・エス テクノロジー様の複雑な業務もスクリプトによる機能拡張で実装できると考え、提案をすることにしたのです」。
システムの運用:スクリプトを駆使することによって複雑な業務のシステム化に成功
注文書や請求書の一元管理に加え、ボタン一つで印刷も可能に
プリザンターの採用が決まり、いよいよデータベースを構築するプロジェクトがスタート。SDTでは、複雑な処理に対応するため、業務内容を丁寧にヒアリングし、ひとつひとつをシステムに落とし込んでいきました。その際、優位性を発揮したのが、SDTのエンジニアの技術力です。今までアナログで行っていた複雑な業務を、プリザンターの標準機能とスクリプトを駆使することによって、次々とプリザンターに置き換えていったのです。「毎週ミーティングを重ね、出来上がった途中段階のシステムを見ながら、修正や追加の要望も伝えていきました。それらを全て実装できたのは、プリザンターのポテンシャルとSDTの技術力があったからこそだと考えています」(岡部氏)。
プロジェクトがカットオーバーし、プリザンターが稼働を始めると、データや帳票が一括管理出来るようになり、同社の業務は大幅に改善されました。当初、まず効果を実感したのが、帳票がシステム上で一元的に管理されているため、必要な情報が即時に見つけ出せるようになった点です。「例えば、従来、見積書は複数の営業社員がそれぞれ紙で持っていたため、営業事務を行う私のところに注文が入った場合、どの見積書の注文なのかをすぐに判別する手段がありませんでした。見積書は探すのが最も大変な書類の一つだったのです。それが、今はプリザンターの台帳にデータが蓄積されているため、瞬時に確認することが可能になっています」(岡部氏)。
また、注文書や請求書もプリザンター上に保管することができ、カスタマイズを行ったことによって、それらをボタン一つで印刷でき、製品の出荷時に同梱することもできるようになっています。以前のように過去の注文書を紙のファイルの中から探す手間は一切なくなり、同時に商習慣として必要な帳票の印刷や同梱もスムーズに行える仕組みになっているのです。
一方、個々の営業社員にとっては、プリザンターを見ることによって、自分が受けた注文が今どのステイタスとなっているのか、外出先からいつでも確認できるようになったことも大きなメリットだと言います。「以前は、取引先から問い合わせを受けた営業社員が私に連絡を入れ、私が生産管理部に聞いて返答するという時間も手間も掛かる状態でした。それが、今ではその製品が生産中なのか、納期がいつなのかも、プリザンターをチェックすれば一目瞭然。取引先への対応スピードも速くなり、業務効率が非常に上がっているのを実感しています」(岡部氏)。
今後の展望:データを活用して市場や営業の状況を分析し、戦略の立案なども視野に
生産管理や製品開発にも導入し、社内全体のシステムに広げたい
今後、プリザンターを使い込んでいけば、データが続々と蓄積されていきます。そうなった場合を見越して、次の活用術として検討しているのが、そうしたデータを市場分析や営業分析に使うことです。今、どのような製品が売れ筋なのか、どんな機能が求められる傾向にあるかなどを、実際の注文の推移などを分析すれば見えてくる可能性があります。そのトレンドに合わせて、営業戦略を立てたり、製品の生産量の調整や新規開発へのフィードバックにも活用したりすることもできるでしょう。
また、プリザンターのデータを使った、日々の業務の効率化も想定しています。毎週の営業会議に向けて社員は報告資料を作るのに時間を費やしていましたが、今後はプリザンターの注文データをCSV形式で出力したものを資料とし、大幅に手間を減らす予定です。
さらに、営業部門にとどまらず、生産管理や設計部門にもプリザンターを導入し、社内全体のシステムとして活用していくことも視野に入れています。まずは一つの部門にプリザンターを導入し、その後に他部門にも横展開させる企業は多く、同社もそのプロセスを踏むことによって、さらなる業務改善効果が期待できそうです。
オフィスを構えるさがみはら産業創造センターにて。