- 無償利用できるプリザンターに着目し、既存のグループウェアからの移行をおよそ半年で完結
- 情報システム部門が定期的に行う研修で教育されたユーザー部門が欲しい業務アプリを自主作成
- 業務アプリの台帳管理によってガバナンスを確立し、ユーザー間で教え合う文化も醸成
課題:無償かつ自社サーバーにインストールできるプリザンターに好印象
既存グループウェアのサポート終了前に導入できるか否かが課題に
TBKは、大型・中型のトラック・バス等を中心に車両メーカーにブレーキ、ポンプ、エンジン部品を供給する大手企業です。タイやインド、中国でも製版体制を確立し、グローバルでビジネスを展開しています。現在は、EV製品や環境に配慮した製品の開発に力を入れています。
同社では、近年業務を進める上で課題を抱えていました。社内で長年使い続けてきたグループウェアのサポート終了が目前に迫り、代替となる移行先のシステムを探さなければならなかったことです。「候補となるツールはいくつかあったのですが、費用と使い勝手の面で合致せず、決め手に欠く状況でした」と、DX推進部業務基盤課の吉田伸氏は当時を振り返ります。
そうした中、吉田氏はオープンソースがテーマのイベント「OSC(オープンソースカンファレンス)」に参加した際、人だかりができている出展ブースを目にします。興味を持って立ち寄ったところ、そこがプリザンターのブースだったのです。「プリザンターはWebデータベースシステムで、魅力的だったのが、無償かつ自社サーバーにインストールして使える点。早速社内での導入を検討する際にデモサイトで実際に操作を試してみましたが、簡単な台帳作成なら項目を選ぶだけというシンプルさで、私も他のメンバーも好印象でした。プリザンターであれば、既存グループウェアを代替できるのではないかと手ごたえを覚え、検討した結果、私たちはプリザンターの導入を決めたのです」
しかし、問題はサポート終了が迫り、社内で定めた移行期限まで半年程度しか時間がないことです。既存グループウェア内には15以上の部署によって台帳管理や文書管理などに関連する約150もの業務アプリが作られており、情報システム部門(以下、情シス)が移行作業を一手に引き受ける場合、期限内に完了しない可能性もあります。移行作業をどう進めたらよいか――。同社は新たな課題に直面したのです。
システムの導入:ユーザー部門に任せることを決断し、「作らない」情シスを具現化
各部署でパソコンに詳しいメンバーにマンツーマンで操作を伝授
そこで、情シスが考え出した方法が、移行作業をユーザー部門に任せることです。その理由を吉田氏はこう話します。「従来、こうした業務アプリは大小に関わらず情シスが作るのが慣例でした。既存グループウェアでは開発の難易度が高かったからです。しかし、現場のニーズと情シスで作るものが嚙み合わないこともあり、作り直したり、最悪の場合使われなかったりすることもあったのです」。その点、ローコード・ノーコードツールで難易度が低いプリザンターであれば、ユーザー部門での開発も視野に入ってきます。「ユーザー部門が手掛ける利点は、自分たちが好きな形に作成でき、まさにかゆいところに手が届くシステムになること。もちろん、効率化や時短という側面もありますが、同時に使い勝手という点でユーザー部門自らが作成することこそが最適解になると考え、『情シスが作らない』という新しいアプローチに挑むことにしたのです」
情シスでは、段階的に進めていく戦略で移行プロジェクトを推進していきます。約150の業務アプリのうち使われていないものを除く精査を行い、移行するものは約90あると判明しました。その上で最初に行ったのが、各部署でパソコンに詳しそうなメンバーを呼び、目の前で移行すべき簡単な台帳をプリザンター上で試しに作りながら説明し、操作方法を覚えてもらうことです。それを契機に、各部署が抱える業務アプリを、ユーザー部門のメンバーの手で移行してもらう作戦でした。「プリザンターはネット上のマニュアル、ブログが充実しており、それらも参照してもらいながら、不明点は情シスに問い合わせれば答えるような体制です。すると、各部署では、着々と移行作業が進行。興味深いことに、自ら使い方を調べて、より便利になるように項目や機能を追加する部署も現れ、プロジェクトは順調に進みました」(吉田氏)。結果、TBKでは移行作業をサポート終了前に無事成し遂げ、第一関門をクリアすることに成功したのです。
システムの活用:社外取引システムに採用し、取引先も巻き込みプリザンターを活用
社内教育を整備してユーザー部門による業務アプリの作成を後押し
次のステップが、導入したプリザンターを活用し、さらなる業務効率化を図ることです。その1つが社有車管理アプリ。約30台運行する社有車に対し、社員が使用前に行うアルコールチェックや出発・帰着時の走行距離、給油量などのデータを入力し、上長が承認したり、必要に応じて集計したりするツールです。また、工場の設備点検の記録もプリザンターで開発しています。各設備に貼付されたQRコードをスマートフォンで読み込むと専用ページに飛び、入力するとプリザンターに記録され、チェック結果に異状があればその場で管理者に通知が行われるシステムです。基本的にユーザー部門が作成し、コーディングが必要な場合に情シスがフォローする体制です。
いずれも従来は紙への記入による管理でした。その場合、前者は再度Excelに手入力して集計する必要があり、後者は、点検結果が書かれた紙の束が残るだけで、蓄積されたデータが活用されていなかったのです。それがプリザンターでデータベース化されることによって、本来必要な管理を効率的に行えます。
さらに、プリザンターで開発した実用的なツールが、社外取引システムです。以前は、工場で使う工具やオイル、備品に関する取引先への発注はアナログでした。担当者が電話やFAX、電子メールで注文し、取引先は紙の複写式伝票に記入後商品に同梱して配送。担当者が商品と伝票を確認して検収し、最後にシステムに入力していました。
それが今では全てプリザンター上で行われています。担当者がプリザンター上で注文を入力すると、取引先にメールが飛び、それを見て商品を出荷して出荷日を入力すると逆に担当者に通知が来ます。以後、担当者が商品を受け取って問題なければ受取日を入力し、上長が承認して検収終了です。「トラブルも余計な手間も解消。取引先も巻き込んでプリザンターが有効活用されている好例です」(吉田氏)
一方、ユーザー部門の自主活用を進めるために、情シスが力を入れているのが社員教育です。現在は、「データベース作成」「ワークフロー作成」「様々な機能の解説」の3パターンを用意し、それぞれを毎月2回ずつ、計6回開講しています。参加者は少人数の場合もあれば、10人程度参加することもあり、受講者は延べ210人に及んでいる状況です。「プリザンターはネット上に充実したマニュアルを公開していますが、ユーザーはどの機能を使えば自分が欲しい業務アプリを作成できるかすぐには分からないのが難点。それを情シス側が業務で使うケースが多い機能に焦点を当て、分かりやすい資料を作って解説しています。資料やサンプル、FAQもプリザンター上で提供しているため、講義後にそれらを見ながら実装もできます」(吉田氏)。こうして教育制度を整備することで、今では数多くの業務アプリをユーザー自身が作り、運用中のアプリにもユーザーが自ら機能を追加するなど、まさに狙い通りに活用が広がっているのです。
今後の展望:業務アプリ作成にルールを設け、スタート時からガバナンスを確立
ユーザー企業と積極的に交流し、オープンソース文化醸成にも貢献
その他情シスでは、プリザンターを使いこなしている上級者の社員向けに、前述の社外取引システムや設備点検記録システムなどを「事例」として作り方を詳述する講座も提供しています。「事例で使われている機能をヒントに、各部署の業務アプリをブラッシュアップしてもらうことを期待している」と、吉田氏は言います。
また、ユーザー部門で続々と作成される業務アプリに関して、一定のルールを設けていることも秀逸な点です。実装する場合、まず、ユーザーはテストフォルダに仮で作成し、試しに使うことから始めます。その後、本格運用する時には情シス側に必ず連絡してからフォルダを本番環境に移します。情シス側ではプリザンターの管理テーブルにフォルダ名と責任者名などを記録。この管理体制によってガバナンス(統治)が確立され、野放図なアプリの増殖を防止できるのです。あるいは、ユーザーが他部署で運用されている各システムを自分たちの部署でも導入したいと考えた場合、管理テーブルを見て責任者に連絡し、作り方や使い方を聞くことができます。「ユーザー間で教え合う文化が醸成され、情シスの負荷低減にもつながっています」(吉田氏)
吉田氏は社外活動として、プリザンターのユーザー企業・ファンが集う「Pleasanter User Meetup」に参画し、交流や情報交換も行っています。Facebook上のプリザンターユーザーグループにも参加し、積極的に情報発信してファンとの連携も図っています。こうしてユーザー企業同士でノウハウを共有し、切磋琢磨するオープンソースの文化が根付いている点もプリザンターの優位性です。「今後は社外の取引先との業務にプリザンターをより一層役立て、業界全体の生産性を高めることにも寄与したい」と、吉田氏は話しています。
「Pleasanter User Meetup」で社内事例を発表する吉田氏