- 自社以外にも大手企業が導入しているグループウェアパッケージが事業売却され、リプレイスを決断
- オールインワンではなく複数の専用サービスを連携、その中核のひとつにプリザンターを採用
- オープンソースのエコシステムにより早いサイクルでプロダクトが成長していく利点に満足
課題:レガシーなグループウェアパッケージを先端的なサービスに移行。オールインワンを捨て、サービスを組み合わせて使う方向にシフト
トクヤマは、化成品、電子材料、セメント、ライフサイエンス、環境関連など幅広いフィールドで事業を展開し、売上高は約3000億円(2021年度)に上る、東証プライム市場上場企業です。全国の主要都市に拠点を構え、多くのグループ会社を抱えています。そして、子会社であるトクヤマ情報サービスが、本社やそれらのグループ会社向けにシステムの開発や保守運用を手掛けています。
そうした中、トクヤマ情報サービスはある課題に直面することになります。それが、本社、グループ会社で導入していた古くからあるグループウェアパッケージが、元々開発していた米国のベンダーから他のベンダーに事業売却されたことです。同社では、2001年からこのパッケージを使ってきましたが、機能的には時代遅れとなり、マルチデバイスやリモートの対応が不十分な点、保守運用が煩雑で扱える人材が不足していることも問題視していました。そこで、事業売却されたことを機に、そのパッケージの運用を止め、グループウェアの機能を他の先端的なサービスに移行する決断をしたのです。
移行する際に考えたのは、従来と同じオールインワンのパッケージにするか、あるいは、個々の機能ごとにサービスを選び、組み合わせることで代替するかの2択です。決断を迫られる中、選んだのは、後者の組み合わせ型でした。「システムの構築方法では、各業務に合わせて強みを持つサービスを選択し、機能性とコストパフォーマンスの両立を図るのが新しい考え方。私たちもオールインワンという考えを捨て、組み合わせて使っていくというアプローチにシフトするべきだと判断した」と、同社ソリューション事業グループの国沢氏は説明します。
さらに、同社が行ったもう一つの意思決定があります。それは、情報の管理・共有を担うシステムとして、オープンソースであるプリザンターの導入を決めたことです。その意図は何だったのでしょうか。
システムの選定:プリザンターは単純にコスト面だけではなくオープンソースが利点。皆で育てていく世界にトクヤマのシステムも“寄せていきたい”
オールインワンのグループウェアは、文書共有や電子メール、電子掲示板、予定管理など様々な機能を持っています。組み合わせ型で代替するというのは、それらの機能ごとに複数のサービスを採用し、連携させることを意味します。まず、業務に欠かせない表計算や文書作成、メールやスケジュール管理などにはオフィススイートを採用。また、ワークフローや、営業支援・顧客管理は、それぞれ専門のソフトウェアを個別に採用することで、代替機能を満たせる可能性が見えてきました。
問題は、それらと連携して情報を管理するための基盤にどのシステムを採用するかです。その懸案事項に対し、トクヤマ情報サービスが出した答えが、前述の通り、オープンソースであるプリザンターを採用することだったのです。その理由を国沢氏はこう話します。「プリザンターは費用対効果が高いことがよく注目されますが、単純にコスト面だけで選んだわけではありません。むしろ、優位性を感じたのは、オープンソースであることです。通常のパッケージソフトではユーザーの声を受けて機能やパフォーマンスを改善することにも限界がありますが、オープンソースであれば、ユーザー同士で技術やノウハウを共有し皆で改善していくことで、パッケージソフトとは比べ物にならないほど早いサイクルで、日々アップデートすることができます。そうやって皆でプロダクトを成長させていく世界にトクヤマのシステムも“寄せていきたい”と考えたのです」。トクヤマグループとしては、社内システムにおいて大規模にオープンソースを使うのは初めての試みでしたが、こうして決断し、新たな可能性の扉を開くことになったのです。
このようにして始まったシステム移行プロジェクトですが、旧システムと移行先となるプリザンターとのギャップを埋めるため、トクヤマIT戦略企画Gr水野氏が、旧システムの利用ユーザーと幾度も打ち合わせを重ね、コーディネーターとしての役割を担ってくれたおかげで、実業務を担当するユーザーとシステム開発担当者との連携が図られ、業務とシステムとのギャップを埋めながらスムーズに開発がスタートしていきました。システムの導入:自社の業務要件を満たすため標準機能の追加開発をメーカーに依頼。他のユーザーも同様に恩恵を受けられるのがオープンソースの醍醐味
オープンソースのソフトウェアを初めて導入する同社にとって、重要なポイントとなったのが、困ったことが起こった時のサポート体制です。そこで、頼りにしたのがメーカーであるインプリムが提供する年間サポートサービスです。「開発に着手した当初は高頻度で質問を送り、それに対して、非常に早い対応で回答を得ることができました。開発から導入当初までに行った質問はかなりの数にのぼり、その度に的を射た回答を返してくれるだけでなく、『こうした方がうまくいく可能性がある』といった提案までいただき、サポートサービスには本当に助けられました」と、開発を担当した秋田氏は当時を振り返ります。
また、サポートサービスでは対処できない問題や要望に対し、解決策となったのがインプリムに有償での追加機能開発を依頼することです。例えば、旧システムでは従業員を複数の組織に所属させる管理ができましたが、プリザンターでは基本的に一人の従業員は一つの組織にしか所属させることができません。同社では従業員が組織を兼務する場合があり、標準機能では対処できない状況でした。そうした中、インプリムの追加開発によって、従業員を管理する既存の統合システムと連携させ、複数組織への所属を管理できる独自機能を実装。「人事異動にも対応しており、非常に良い仕組みになっている」と、秋田氏は言います。
さらに、旧システムの文書データのアクセス権限をプリザンターに移行できない問題も発生。大量のデータに対し、一つひとつ権限を付与し直すことは事実上不可能です。これもインプリムに相談すると、新たにプログラムを作成し、権限の情報も一緒にデータ移行できる仕組みが構築されました。そして、これはプリザンター本体の新機能として製品に組み込まれることになり、他のユーザーもこの機能を利用できることになったのです。
こうして、ユーザー企業の抱えていた問題が機能追加によって改善され、他のユーザー企業もその恩恵を受けられる構図は、まさにオープンソースならではの醍醐味と言えるでしょう。「その他にも、元来レスポンスが早いプリザンターですが、データ量が多くなり、少し遅くなる場面が出た際、相談したこともあります。その時はインプリム側が当社のシステムを調査し、約1カ月で改善。これも製品に組み込まれ、サクサク動くようになりました。この対応スピードの速さもプリザンターを使う利点だと実感しています」(秋田氏)。
今後の展望:要望通りの改善が実現し、オープンソースのメリットを実感。「安心してグループ全社で使っていける自信が持てた」と高評価
現在、プリザンターは、取引先からの問い合わせ対応の記録などの台帳機能、マスター機能、部署ごとの報告書の共有、従業員の連絡先の共有、健康診断の予約など、幅広い用途でグループ内の約4000人に活用されています。「最新のサーバーやPCでなく、たとえ古いPCであったとしても、とても軽く動き、パフォーマンスは非常に良好です。他のユーザーからの要望も取り入れられたことで更にパフォーマンスが改善されている機能もあり、その他の機能追加も含めてオープンソースのメリットを十分に受けられていると感じています」(国沢氏)
一方で、他システムとの連携性の良さも高く評価しています。プリザンターはCSVデータのインポート・エクスポートやAPIによるデータのやり取りなど柔軟なシステム連携が可能です。現状では、プリザンターが持っている各種マスターデータを、ワークフローを管理する別のシステムから参照する連携や、社内の予算管理システムとのファイル連携など、縦横無尽のデータ連携を実現しているのです。
今後はプリザンターに追加されたワークフローの新機能である「プロセス」の活用も視野に入れています。「集計機能」の利用も各部署に提案し、問い合わせについて、対応中や解決済みが何件あるかを集計して、現状把握と対応力向上に役立てる施策も検討しています。「今は、安心してこのままグループ全社で使っていける自信が持てるようになっている」(国沢氏)と言い、プリザンターが様々な業務に貢献する場面は、これからも増えていくことになりそうです。
社屋屋上から望む周南市街と周南コンビナート